「メンバーとはどんな存在ですか」――ファンとしてグループアイドルのインタビューを約30年追いかけてきたが、この質問はどの時代でも変わらない定番である。そしてアイドル側のこの答えもまた、長らく不変だったりする。
それは「メンバーはメンバーで他に例えようがない」というものだ。
「「メンバーどうし仲がいいとか悪いとか、そんなことは他人からどう見られてもかまわない。ただ、ステージの上では俺たちは死にもの狂いでやってきたという自負がある。そのときのメンバーというのは、友だちも兄弟も及ばない、それ以上の特別な存在なのだ」
(諸星和己『くそ長~いプロフィール』主婦と生活社、2004年)
「言葉で説明のしようがないんですよね......。普通の方たちには経験のない距離感と感覚だと思います。僕たちがやっている仕事の内容は特別視されますけど、考えていることや悩んでいること、楽しいことは、同じ世代の人たちとそんなに変わらないんです。だけど、その人たちの周りに、僕らと同じようなメンバーの存在がいるかといったら、きっとあてはまる人はいないと思います」
(中居正広『サンデー毎日』2014年8月3日号)
(大野さんはどんな存在?という問いに対して)
「これね、ほんとに「リーダー」だけじゃなくて、「メンバー」「嵐」っていう言葉以外の形容のしようがなくて、家族でも友達でもないし、それ以上なんじゃないですかね」
(松本潤『<嵐会見全文/後編>「嵐じゃないと叶えられない夢がたくさんある」』モデルプレス、2019年1月28日)
2024年9月13日から配信が始まったNetfilxの「timelesz project -AUDITION-」。
この番組が興味深いのは、なんといっても「一見サバ番のようで実は全くサバ番じゃない」ことだ。
KーPOPアイドル文化が火を着けたここ10年ほどのサバ番ことサバイバルオーディション番組ブーム、その肝は、新人候補生/練習生の切磋琢磨が産み出す閃光である。
サバ番は彼らの喜怒哀楽を色鮮やかに映し出し、一瞬を見逃さんとする視聴者をファンに変えて、最終的には夢を追う若者が新しいアイドルグループのデビューメンバーになるストーリーを届ける。
つまるところサバ番の最終回に映し出されるのは、あくまでも、全員が横並びのまっさらなスタートラインについた姿なのである。
だがepisode01やYouTubeの公式動画にも副題として添えられているように、timelesz projectはまず前提からして「仲間探し」なのだ。
そして、特にグループ単位で長年活動してきたアイドルにとっての「仲間」は、まさに先人たちが口にしていたように無数のファンの期待、欲望、時には人生さえも共に背負う「友達にも家族にも例えられない特殊な関係性」を指している。
だからtimelesz projectの審査基準は従来のサバ番とは全く異なり、「今までまったく別の人生を生きてきた若者が、加入時点ですでにドームツアーの成功まで経験してきた現役トップアイドルと、これから起きるすべてを共有する”メンバー”になれるか」。
全ては、その合否なのである。
日本の男性アイドル史を遡っていくと、男性アイドルグループが解散ではなくメンバーの脱退を内包しつつ長期的に活動継続するようになった、その分岐点は1996年のSMAPである。*1
実はその1996年、SMAPの結成メンバーである森且行の脱退会見時に、芸能記者からは「グループに新メンバーは加入させないんですか」という質問が出ていた。
そう、少なくとも平成前期の日本では”欠員”が出た旧ジャニーズの人気グループに新メンバーが加入する、そういった発想もまだまだ普通に存在していたのだ。
しかし周知のとおり、1996年のSMAPは残るメンバー5人での活動継続を選択した。
そして5人のSMAPがそのまま天下を取ったことで、特に旧ジャニーズにおいては「メンバーが抜けても新加入はなし」が自然と定着していく。
いや、途中からはむしろ世間に「メンバーが抜けた後のグループをどう魅せるのか」という楽しみさえ提供していたのが、旧ジャニーズ勢の凄みでもあったかもしれない。
それは9人から3人になったNEWS、8人から5人になったSUPER EIGHT、6人から3人になったKAT-TUNなどの近年のライブ映像を見るとまさに一目瞭然である。
事実として、長い蓄積の上に立つ現代のアイドルグループはもうとっくに、脱退さえも正解にできてしまう技量もノウハウも充分備えているのである。
だが時代の流れが大きく変わり、結成メンバーがまた一人巣立つことになった2024年、自分たちの意志でtimeleszへの改名を決めたアイドルグループは、同時に長い慣習も自分たちの意志でぶち破る。
しかも彼らにとって最も困難なはずの「メンバー」探しの記録を、2024年の彼らはすでに経験値が高いテレビではなく、あえてNetfilxやYouTubeという未知の領域から発信しようとも決めていたのである。
ここまで書けば、例えそんなに旧ジャニーズアイドルに興味がない人でも、timelesz projectの特殊性はなんとなく見えてくるはずだ。
そう、timelesz projectはサバ番じゃなく、やっぱり「仲間探しオーディション」なのである。
「ここで出会った仲間たちとアイドル人生のラストを歩むつもりなので」
(菊池風磨『timelesz project -AUDITION-』episode02)
だからこそ、この先映し出される感動も、落胆も、その全てに前例はないのだ。
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<関連リンク>
www.netflix.com
timelesz-project.com
*1:実はさらに遡ると1994年に光GENJIがメンバー2名の脱退を受けて「光GENJI SUPER 5」に改名し、残る5名で活動を続けた例がある。ただ光GENJIのケースは①1994年時点で結成メンバー7名の意志はグループ解散に一度まとまりかけていた ②しかしその後の事務所上層部の説得による翻意や契約問題などがあり、話し合いの末に2名脱退/5名活動継続と分かれた ③改名後の活動期間は約1年しかなかった、という違いがある。参考文献:諸星和己『くそ長ーいプロフィール』、大沢樹生『昨夜未明、大沢樹生が死にました… 』