小娘のつれづれ

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「国民的アイドル・香取慎吾のカムバックが意味するもの:ベストヒット歌謡祭2023」

 この数年、日本では芸能人の事務所独立が急増している。以前は”干される”といったネガティブワードがつきものだった芸能人の独立も、近頃はメディアの多様化に世論の後押しもあり、前向きな選択として受け止められるようになってきた。

 ただ、それでもアイドルの独立が少し特殊なのは、昔も今も変わらない。なぜなら過去の実績を比較的引き継ぎやすい俳優やミュージシャンと違い、アイドルの独立はその多くが、活動の根幹だった「持ち歌」を失うことから始まるからである。
 
 しかし独立から6年、そんな大損失を乗り越えて、ついにアイドル・香取慎吾は民放の大型音楽特番にカムバックする。
 彼がテレビ越しの大観衆の前に帰還するのは、奇跡と言うよりも、独立後の歩みを追えばむしろ必然の結果であった。

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2017年(9月):事務所独立による「持ち歌の喪失」

 独立したアイドルが、持ち歌を歌えなくなること。
 それは様々な事情――例えば独立以前に交わされていた契約内容や前所属事務所が負担していたプロモーション費用、グループアイドルであれば「持ち歌」がグループ単位で発表された作品であること、さらにグループ単位のファン心理への配慮――などを考えると、仕方がないことかもしれない。

 ただ一方で、義務教育中でも仕事として成立してしまうアイドル当人の視点に立てば、それは犠牲にした青春の代わりに、10代からこつこつと育ててきた財産でもあった。
 11歳から39歳までの28年間、国民的アイドルグループ・SMAPのメンバーとして活動し続けた香取慎吾が2017年の事務所独立時に失った「持ち歌」は、実に400曲以上*1に及ぶ。

2017(9月)~2019年:テレビで歌えなかった3年間

 2017年12月24日、香取は同じく新事務所に移籍した草彅剛、稲垣吾郎とともに新しい地図名義で配信シングル『72』を発表し、音楽活動を再開。
 翌2018年4月には草彅とのユニット・SingTuyo名義でも配信シングル『KISS is my life.』を発表、また2019年2月~4月には独立以来、初のライブイベントとなる「NAKAMA to MEETING_vol.1」も開催した。

 しかし独立してからの3年間、彼らの歌唱シーンが見られるのはYouTubeの公式ミュージックビデオかABEMAのレギュラー番組「7.2 新しい別の窓」のみで、テレビの音楽番組出演は一切なかった。


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 少し風向きが変わるのは2019年7月、前所属事務所に独占禁止法違反の恐れがあるとして、公正取引委員会が行った「注意」以降である。

2020~2022年:コロナ禍の苦しみと奮闘

 2020年1月1日、香取は初のソロアルバムとなる「20200101」をリリース。その直後、2020年4月にはNHKの音楽番組「SONGS」に出演する。これは香取にとって独立以来、約3年半ぶりとなる地上波の音楽番組出演であった。
 しかし個人の音楽活動がいよいよ本格化というタイミングで、コロナ禍がエンタメ界を直撃。
 新しい地図のライブイベント「NAKAMA to MEETING_vol.2」はもちろん、香取にとって初のソロ名義ライブとなるはずだった「20200429 PARTY!」(さいたまスーパーアリーナ)も全て開催中止となってしまう。
 
 ただ、それでも香取は、アイドルとして生きる選択肢=音楽活動を決して手放さなかった。
 俳優や画家としての個展開催など多分野での活躍も見せつつ、2021年4月には「さくら咲く 歴史ある明治座で 20200101 にわにわわいわい 香取慎吾四月特別公演」でライブ活動を再開、2022年4月には2作目のソロアルバム「東京SNG」をリリース。
 さらに2023年1月からはソロ名義で初の全国ライブツアー「BlackRabbit」を開始し、東京では初のアリーナクラスとなる有明アリーナでの2公演も成功させた。

 するとその直後、香取の音楽活動にもうひとつの契機が訪れる。支援の手を差し伸べたのは他ならぬ、長年の”仲間”であった。

2023年:民放音楽番組、そして大型音楽特番への復活

 中居正広とダウンタウン・松本人志が司会を務める2023年4月30日放送のフジテレビ系「まつもtoなかい」にて、香取は最新曲の『BETTING』を披露。
 香取が民放テレビ局で歌ったのはフジテレビ系「SMAP×SMAP」最終回以来、約6年半ぶりとなった。

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 また2023年8月には日本テレビ系の音楽番組「バズリズム02」にも出演。香取が日本テレビ系の番組で歌を披露したのも2015年放送の「さんま&SMAP!美女と野獣のクリスマススペシャル」以来、約8年ぶりの出来事である。
 そして2023年11月16日、香取の音楽活動はついに、日本テレビ系「ベストヒット歌謡祭」への出演まで到達するのだ。

国民的アイドル・香取慎吾のカムバックが意味するもの

 2023年11月16日の夜、無数の観客の前に香取慎吾が立つ光景は、SMAPが「FNS歌謡祭」(フジテレビ系)や「MUSIC STATION スーパーライブ」(テレビ朝日系)の常連だった時代を知る世代には、ある意味見慣れたものかもしれない。
 だが香取自身にとっては民放の大型音楽特番もまた、SMAPのメンバーとして出演した「CDTVスペシャル!年越しプレミアライブ2015⇒2016」以来、やはり約8年ぶりのステージなのである。
 しかも今回は関ジャニ∞、Kis-My-Ft2、なにわ男子といった前所属事務所の後輩たちとの共演という歴史的トピックまで創出している。
 28年分の持ち曲を全て失ったあの時、テレビの歌番組に出られなかったあの時、ライブの開催中止が相次いだコロナ禍のあの時……
 もしも独立後の香取慎吾が音楽活動の継続を一瞬でも諦めていたら、2023年の日本アイドル界は「圧力」や「忖度」や「共演NG」といった言葉に一層埋もれて、さらに陰鬱な印象を後世に残していたのかもしれない。

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 改めて、2023年の香取慎吾の凄さは過去の実績をそのまま引き継ぎやすい俳優活動ではなく、「持ち歌が0になる」ところから始まる独立アイドルの音楽活動で、この現実を創り上げたことにあるのだ。
 だからこそ、「ベストヒット歌謡祭2023」のステージはなるべく見逃してほしくない。
 それは今なら誰もが、日本アイドルに訪れる新しい時代、その最初の目撃者になれるからである。



<TVer>
※香取慎吾出演:Vol.1、Vol.4
ベストヒット歌謡祭2023 Vol.1
ベストヒット歌謡祭2023 Vol.2
ベストヒット歌謡祭2023 Vol.3
ベストヒット歌謡祭2023 Vol.4

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*1:JASRACデータベースのアーティスト名「SMAP」完全一致件数:403件、また他にもSMAP時代に「香取慎吾」名義で発表された作品が存在