小娘のつれづれ

一人で自分の”好き”を追いかけています。

「テレビマンの覚悟が光るフジテレビ『おじゃMAP!!』」

2017年12月20日の放送で、あの2人があの話題に触れていて驚いた。
”あの2人”とは今年事務所を移籍した稲垣吾郎・香取慎吾のことで、”あの話題”とはもちろん、SMAPである。


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フジテレビ系「おじゃMAP!!」は2012年から毎週水曜に放送されているゴールデン帯の番組だ。
メインは香取慎吾とアンタッチャブルの山崎弘也、もちろん放送開始時の香取は”SMAPの香取慎吾”だった。
それが周知の通り、様々な事情が重なり2016年にグループは解散を発表、香取は2017年からソロタレントとしての出演になっている。

番組開始から数年、「あなたの街におじゃMAP!!」という番組コンセプトをなぞるように街歩きロケや挑戦企画で構成されていた同番組に変化が表れ始めたのは、香取が前事務所を離れることが正式に発表された、2017年の6月頃である。
視聴者のリクエストに応えるという形で香取たち一行が訪れたのは、青森のとある駅だった。
青森県にある津軽鉄道・嘉瀬駅、ここはやはりフジテレビで放送されていた「SMAP×SMAP」のロケで、かつて香取が訪れた場所だ。
1997年、当時20歳の香取が地元の子供たちとともに色を塗ったご当地鉄道の車両は、時間の経過とともに塗装がはがれ、地元の人はその姿に胸を痛めていたという。
そして20年後の夏、おじゃMAPは番組を通じて、SMAPではなくなった40歳の香取と電車を再会させた。

「これだけボロボロになるぐらいの20年、俺頑張ってきたんだな」
(フジテレビ『おじゃMAP』2017年6月7日)


そして香取が30年在籍した前事務所を自ら離れ、新事務所に移籍した後の2017年10月、「おじゃMAP」はある新企画をスタートさせる。その名も『ザキDが撮る ゲストが香取慎吾とやりたいこと』シリーズ。
解散騒動から事務所移籍までの約1年半、その複雑な事情ゆえに自ら口を閉ざし、波風を避けて後ろに下がることがベストになりかけていたタレント・香取慎吾を、おじゃMAPはこのタイミングで、再び一番目立つ位置に押し出したのだ。
香取が事務所を移籍した後の「おじゃMAP」は、それまでに比べて相当攻めていた。


・2017年10月4日(移籍後、初の放送回)
「香取慎吾が草彅剛と二人旅」
→SMAPとしてCDデビューした頃、草彅と香取が実際に行っていたストリートダンスに再挑戦
→「SMAP×SMAP」終了後、9か月ぶりにテレビで歌を披露

・2017年10月18日
「太田光と香取慎吾二人旅」
→解散騒動時、SMAPと旧知の仲だった爆笑問題の元にたくさん届いたファンの手紙の想いを伝えるため、太田が香取に手紙を送っていたことが明かされる
「萩本欽一と香取慎吾二人旅」
→2002年からの「仮装大賞」のダブル司会について、萩本自身が番組の後継者と見込んで香取を推薦していたことが明かされる

・2017年10月25日
「みやぞんと香取慎吾二人旅」
公式Twitterでの香取曰く「TV観てて、面白くて、僕に笑顔くれた、みやぞんに会えた」
(※ANZEN漫才・みやぞんのブレイクは2016年~、SMAP解散騒動とほぼ同時期から)

・2017年11月1日
「香取慎吾が草彅剛と二人旅」続編
→本編では未公開だった「イージュー★ライダー」(奥田民生カバー)の歌唱シーンを放送

・2017年11月15日
「橋田壽賀子の自宅におじゃまロケ
→「笑っていいとも!」での共演後、香取と長年交流の続いている脚本家の橋田壽賀子に再会

・2017年11月29日
「加藤浩次が香取慎吾とやりたいこと」
→2002年のドラマ「人にやさしく」で共演した加藤浩次、松岡充、須賀健太と再会
→加藤浩次はかつて極楽とんぼとしての活動が危機を迎えていた時期、香取の「僕は加藤さんのこと応援してますから」という一言が強い支えになっていたと番組内で打ち明けた


そして2017年最後の放送となった12月20日にゲストとして登場したのは、やはり同じく2017年に事務所を移籍した、盟友の稲垣吾郎だった。

パブリックイメージからして完全にタイプが真逆の2人は、「今までまったく思い出がない」とSMAP時代からの定番ネタで視聴者を笑わせるが、実は同時参加だった前事務所のオーディションから30年、長い芸能人生をともに歩み続けている間柄でもある。
この回では、香取のこんな発言が放送された。

香取「(稲垣がゲストで番組に来ると決まって)つよぽんだけじゃなくて他の人も、”みんな”のことを考えたの、今回。草彅以外のみんなのことを考えた時に、色んな思い出話ってある」
(フジテレビ『おじゃMAP』2017年12月20日)


香取と同時に前事務所を離れ、「新しい地図」を立ち上げたのは稲垣、草彅、香取の3人。
そのうち草彅を除いた”みんな”という複数形の意味の先にあることばは、視聴者にしてみればほぼ間違いなく”SMAPのメンバー”である。

そしてこのことばの放送が「踏み込んだな」と感じる理由も、現在のお茶の間には少なからず存在している。
それは11月にインターネット放送局のAbemaTVで放送された3人の出演番組「72時間ホンネテレビ」に関する話題が、同局の歴代最高視聴数を残しながら、在京キー局ではほとんど取り上げられなかったこと。
また先日3人が受賞した「GQ Men of the Year 2017」についても、事務所移籍組の3人のコメントシーンを、完全カットして放送する番組が複数あったこと。
さらにいえば「72時間ホンネテレビ」という自分たちの番組ですら、3人はSMAPの曲も、SMAPという単語さえも一言も発せなかった事実。
その姿に視聴者はテレビの向こう側で動いている無言の力関係を、悲しくも明快に知ったのである。

しかし、「おじゃMAP」は”SMAPのメンバー”としての香取たちの言葉を、カットすることなく放送した。
さらにいえば香取が前事務所を離れると決めた時から、彼を青森の電車に再会させた時から、
視聴者に届けるべき笑いと相反するがんじがらめの現実の間で、バラエティ番組「おじゃMAP」はすでにしっかり腹をくくっていたのである。
何気ない笑いの中に覚悟があり、覚悟があるからこそ、視聴者は自然と見入ってしまう。
視聴者を夢中にさせるテレビマンのそんな”覚悟”が、今の「おじゃMAP」には惜しみなく注がれているのだ。

そしてもう一つ伝えたいのは、この番組の”覚悟”を誰よりも体現しているのはもう一人のメイン出演者、2017年10月以降の放送で「ザキD」として番組を回している、アンタッチャブル・山崎弘也なのである。
本来芸人としては笑いのために前へ前へと目立っていく、もちろん他番組では今も彼にとって当たり前のことを、この番組では山崎はあえて封印し、一貫して香取のサポート役に徹している。

山崎扮する「ザキD」はロケに先立って別撮りで共演ゲストの希望をユーモアたっぷりに聞き、ここぞという要点で賑やかに撮影を回し、そして時にはあえて裏に下がって香取とゲストのやりとりを見守りながら、お茶の間と同じ視点のツッコミを入れる。
彼の存在があるからこそ香取は安心して本音をつぶやけるし、視聴者は、同じ世界の中で笑えて時に泣けるのだ。
思えば香取が前事務所の退社を発表してまだ間もない頃、誰一人聞けなかった香取の本音を、笑いの中についに引き出していたのもこの人だった。

山崎「今後は留学、するんですよね?」
香取「そうね、20代とかは”留学行きたいな”とかあるじゃん、そういうの…俺40歳!留学して勉強しない!」
山崎「じゃあしないのね?留学」
香取「マジでしない!」
山崎「ただあの問題もあるでしょ、俺何て呼んだらいいんだろ、今後。画伯でいいんですかね?」

香取「こんな時だから言うけど…俺引退しないから!」
(フジテレビ『おじゃMAP』2017年7月19日)


エンターテインメントの振り向く先は、パワーゲームの勝ち負けではなく、やはり本当は視聴者の心であってほしいのだ。
2018年は不可思議な忖度ではなく、「おじゃMAP!!」のように共感と覚悟で釘付けにする、そんなテレビ番組を私はもっと見たい。

参考文献
テレビ各局(在京キー局)は「新しい地図」をどう報じたか(てれびのスキマ) - エキスパート - Yahoo!ニュース
関連リンク
おじゃMAP!!【公式】 (@oja_map) / X


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*1:フジテレビ公式ホームページ「おじゃMAP!!」:https://www.fujitv.co.jp/ojamap/