小娘のつれづれ

一人で自分の”好き”を追いかけ続け、執筆業になりました。2017年に初の単著がでました(乗田綾子名義)。



2017年9月発売の『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)については【こちら】

「松井珠理奈に見るアイドルのメンタルバランス」

もう数日前の話題になりますが、
SKE48の松井珠理奈が入院&無期限休養になったというニュースがありました。

「ブラック企業だ」とか「15歳の女の子に働かせすぎ」とか
ヲタ世間ひっくるめて色んな意見がでてますが、
アイドルヲタとしての意見も書いておこうかなーと思います。


「アイドルのメンタルバランス」


* * *


結論から言ってしまうと、
アイドルという職業は、未成年のメンタルバランスを著しく破壊する存在だと思っています。

為末大さんのtwitterつぶやきでこういうのがありましたが

人には自分を頑張らせる父性面と、許しの母性面の両方が存在していて、
そして社会にもその両方があって、そのバランスをうまくとるのが大事なんだと思う。
そして一番大事なのは自分の核にあるモチベーションという子供。
この子を大事に観察するという事が大切。

為末大さん「我慢と部活動と鬱について。」



アイドルという職業は、まだ核の”子供”ですら育ちきっていない未成年たちに
いきなり「社会で正しい”父”であれ」という事を要求します。
当然、自分の中の子供が大きく動揺する場面は多いでしょう。
メンタルバランスだけでいえば、基本的にアイドルは罪深い職業。

ただその反面、普通の未成年にはないアイドルならではの救いがあって、
それはファンとスタッフという数多くの”母性”が存在する事です。
もちろんそこには贖罪意識もありますが、
だからこそ真摯に彼女たちと向き合い、
自分の時間を削ってまで、彼女たちが帰る場所、安心できる家を作ろうとします。

だからアイドルは罪深い職業ですが、
著しく救いのない人生、というばかりでもないように思います。
実際、アイドルにしか得られない父性面、母性面を持って
過去の自分に感謝し、その後の人生をしっかり歩んでいる元アイドルも結構います。


そして本題、松井珠理奈の話に入りますが


彼女もまた自らを律する”父性”、
自分や周りが守ろうとしてくれる”母性”を抱えたアイドルなのですが、
彼女がちょっと違うのは

「母性の中に潜む”悪意”に攻撃される環境に常に置かれ続けている」

という事です。


端的にいえば、彼女が12歳の時に始まった「総選挙」

「票数は愛」のこのシステムは、
本来誰も介入する事のできなかったアイドルとファンの絆を、
強制的にエンターテイメント化しました。

本来不可侵であるはずの母性は、競争の為に、
父性の強化道具へと形を変えてしまったのです。


もちろん良い結果が出れば、それは大きな母性になりうるかもしれません。

しかし松井珠理奈は、2010年には10位まで登りつめたものの、
2011年、14位に順位を落としました。

本人は
「私は順位じゃなくていつも応援してくださってる皆さん、
支えてくださってる皆さんに感謝の気持ちを全力で、笑顔でお伝えすることができたら」
とコメントしていますが、


本来全てを許してくれるはずの母性に牙を向かれた瞬間、*1
ずっと頑張ってきた14歳の父性はどう思ったのでしょう。
そして14歳の無邪気な子供は、それをどう見ていたのか。


最近のAKBに関して、
プロデューサーの秋元康はこういうコメントをしています。

生徒の身体的、精神的ケアは各学校スタッフと医療スタッフが相談しながら管理していますが、
「今、休んだら、成績が落ちる」と思って無理をしてしまう生徒がいるのが心配です。

今は女医を中心に女性の臨床心理士、スクールカウンセラーなどがチェックしているので、
万全だと思います。

秋元康(Google+)



しかし一般的に、精神的ケアは一つの面だけで簡単に改善するものではありません。
心の病一つにしても、単に薬を飲んだからといって治るわけではなく、
「医療従事者との相性」「自分の環境」など複数の要因がある程度整った上で、
はじめて「効果」がゆっくり改善へと向かわせます。

他のアイドルにはない「総選挙」というシステムで
本来不可侵の母性を、ビジネスのカンフル剤にしてしまったAKBの場合
単に専門家を置いたから良いという話ではなく、
なぜ生徒たちは無理をしてしまうのか、生徒たちが子供に戻れる場所はあるのか、
その根本から整備しなおさないとなおさら、
いつまでも生徒たちの精神的負担は改善されないままでしょう。


また、さらに秋元氏は以前こんなコメントも残しています。

選抜も、コマーシャルも、番組も、
僕が一人で決めているわけではありません。
最終決定権は僕にありますが、
いろいろなスタッフの意見を聞きます。
そこに、もっと、いろいろな名前が出て欲しいんですよね。
つまり、松井咲子のような小さな努力や運が見えて来ないんです。
今の自分にできることを考えなさい。

秋元康(Google+)



彼女たちの置かれた環境が「プロ」であることは、承知しています。
だけどたった一度の青春を捧げている思春期の少女たちを指導している以上、
秋元康はプロデューサーでもありながら、
彼女たちにとっては保護者でもあるはずです。

その保護者が、さらなる父性を求めている。
単純なビジネスの啓蒙ではない、彼女たちから母性を奪ったまま。


ここがアイドルでビジネスをするということの怖さであり、
15歳の女の子を過労で入院させた原因の根本なんだと思います。


* * *


ちなみに未成年アイドルのメンタル問題だと、
必ず12歳でデビューした加護亜依の話が引き合いに出されると思いますが、
加護の場合はまず一歩引いた妹ポジションでグループの中に居続けられた事と、
そもそも総選挙のような内外に晒される指標で
他メンバーと蹴落としたり蹴落とされたりという環境はなかったので
今の松井珠理奈が置かれた環境とはかなり違っていると思います。


(さらに解雇の話は元々、
未成年者喫煙防止法という法律に思いっきりひっかかった加護をUFAは一旦事務所に置き続け、
1年後には外部メディアに取材をさせるなど、途中までは確かに復帰の道筋を作っていました。
その中で、加護は自ら写真週刊誌に撮られるような環境で喫煙をしたわけで、
同じような年齢でデビューした辻、新垣、田中、道重などが法律関係で何事もなく成人を迎えていることを踏まえても
これはUFAの冷徹さというより、加護自身の判断責任の方が強い)


・・・まぁこう見ると変な話、
当時の加護には自分の核である「子供に戻れる油断」が残されていたのかもしれないですね。
それが、今の松井珠理奈にはあるのだろうか。
年1回総選挙というシステムで嫌でも子供の自分を殺される彼女に。



最初にも触れましたが、アイドルは罪深い職業であり、
その一因は、間違いなく私たちファンにもあります。
だから本当はこんな事言えた義理でもないんだけど。


でも私たちはそのシステムの中で、精一杯彼女たちを許せる場所でありたい。


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*1:ここで使っている”牙”は、ファンの愛が足りなかったという事ではありません。ファンの無償の愛が、総選挙というマネタイズで彼女に現実を見せる凶器にさせられてしまう、そういった意味での牙です