小娘のつれづれ

一人で自分の”好き”を追いかけています。

「松井珠理奈に見るアイドルのメンタルバランス」

もう数日前の話題ではありますが、SKE48の松井珠理奈が入院&無期限休養を発表したことについて。


以前、為末大さんのtwitterでこうしたつぶやきがありましたが

人には自分を頑張らせる父性面と、許しの母性面の両方が存在していて、そして社会にもその両方があって、そのバランスをうまくとるのが大事なんだと思う。
そして一番大事なのは自分の核にあるモチベーションという子供。
この子を大事に観察するという事が大切。
為末大さん「我慢と部活動と鬱について。」



アイドルという職業は、まだ核の”子供”ですら育ちきっていない未成年に、いきなり「社会で正しい”父”であれ」という事を要求します。
当然、自分の中の”子供”が大きく動揺する場面は多いでしょう。
メンタルバランスだけでいえば、基本的にアイドルは罪深い職業。

ただその反面、普通の未成年にはないアイドルならではの救いがあって、それはファンとスタッフという数多くの”母性”が存在し得る事です。
もちろんそこには贖罪意識もありますが、だからこそ真摯に彼女たちと向き合い、時には自分の時間を削っても、彼女たちが帰る場所、安心できる家を作ろうとします。

だからアイドルは罪深い職業ですが、著しく救いのない人生、というばかりでもないように思います。
実際、アイドルにしか得られない父性面、母性面を持って過去の自分に感謝し、その後の人生をしっかり歩んでいる元アイドルも結構います。


そして本題、松井珠理奈の話になりますが

彼女もまた自らを律する”父性”、自分や周りが守ろうとしてくれる”母性”を抱えたアイドルなのですが、彼女がちょっと違うのは
「母性の中に潜む 悪意 に攻撃される環境に、常に置かれ続けている」
という点です。
端的にいえば、彼女が12歳の時に始まった総選挙。
「票数は愛」のこのシステムは、本来はあいまいな人間の情を、半ば強制的に可視化/コンテンツ化しました。
つまりそれはエンターテインメントとしての誘引力を追及する中で、本来不可侵であるはずの母性を、意図的に父性の強化道具へ作り変えてしまったという悲劇でもあります。

そこでもちろん良い結果が出れば、それは彼女たちを守る大きな母性になりうるかもしれません。
しかし実際の総選挙での松井珠理奈は、2010年には10位まで登りつめたものの、2011年、14位に順位を落としています。

本人は「私は順位じゃなくていつも応援してくださってる皆さん、支えてくださってる皆さんに感謝の気持ちを全力で、笑顔でお伝えすることができたら」とコメントしていますが、本来全てを許してくれるはずの母性に牙をむかれた瞬間、ずっと頑張ってきた14歳の父性はどう思ったのでしょう。
そして14歳の無邪気な子供は、それをどう見ていたのか。

最近のAKBに関して、プロデューサーの秋元康氏はこういうコメントをしています。

生徒の身体的、精神的ケアは各学校スタッフと医療スタッフが相談しながら管理していますが、「今、休んだら、成績が落ちる」と思って無理をしてしまう生徒がいるのが心配です。
今は女医を中心に女性の臨床心理士、スクールカウンセラーなどがチェックしているので、万全だと思います。
秋元康(Google+)


しかし一般的に、精神的ケアは一つの面だけで簡単に改善するものではありません。
心の病一つにしても、単に薬を飲んだからといって治るわけではなく、医療従事者との相性や自分の環境など、複数の改善要因がある程度整った上で、はじめて効果が、ゆっくりと出てくるものです。

他のアイドルにはない「総選挙」というシステムで、他者からの愛情をビジネスのカンフル剤にしてしまったAKBの場合、単に専門家を置いたから良いという話ではなく、なぜ彼女たちは無理をしてしまうのか、彼女たちが本当に心を休められる場所はあるのか、そしてそのことを第一に優先し、細やかなサポートをしてくれる大人は常に近くにいるのか。
そういった複数の根元から丁寧に整備し、そしてケアを継続できる仕組みをしっかり構築していかないと、いつまでも彼女たちの精神的負担は改善されないままでしょう。

また、さらに秋元氏は以前こんなコメントも残しています。

選抜も、コマーシャルも、番組も、僕が一人で決めているわけではありません。
最終決定権は僕にありますが、いろいろなスタッフの意見を聞きます。
そこに、もっと、いろいろな名前が出て欲しいんですよね。
つまり、松井咲子のような小さな努力や運が見えて来ないんです。
今の自分にできることを考えなさい。
秋元康(Google+)



彼女たちの置かれた環境が「プロ」であっても、思春期の少女たちを導いている以上、秋元氏はプロデューサーでありながら、彼女たちにとっては絶対に保護者的な側面もあるはずなんです。

その保護者が、さらなる父性を求める。
彼女たちから、母性を奪ったまま。

* * *

ちなみに未成年アイドルのメンタル問題だと、12歳でデビューした加護亜依の話が必ず引き合いに出されると思いますが、加護の場合はまず一歩引いた妹ポジションでグループの中に居続けられた事と、そもそも総選挙のような公開指標で他メンバーと蹴落としたり蹴落とされたりという環境ではなかったので、今の松井珠理奈が置かれた環境とはそもそもかなり違っています。*1

・・・まぁこう見ると変な話、当時の加護亜依には”子供”に戻れる油断が残されていたのかもしれないですね。
しかしそれが、今の松井珠理奈にはあるのだろうか。
年1回総選挙というシステムで嫌でも”子供の自分”を殺される彼女に。


結局、アイドルは罪深い職業であり、その一因は、間違いなく私たちファンにもあります。
だから本当はこんな事言えた義理でもない、とは思いつつ。

でも私たちはそのシステムの中で、精一杯彼女たちを許せる場所でありたい。

*1:さらに解雇の話は元々、加護自身のとった未成年喫煙という行動が社会的モラルに思いっきりひっかかってるという大前提があり、それでも事務所は途中まで復帰の道筋を作る温情を見せていた中、さらに加護が公衆の面前での喫煙を繰り返してしまったわけで、同じような年齢でデビューした辻、新垣、田中、道重などが法律関係で何事もなく成人を迎えていることを踏まえても、これは事務所の冷徹さというより加護自身の責任の方が強かったです