最近…というかまぁ割と継続的なんですけど、この時代に音楽を買ってもらうってどういうことをしたらいいのかなーとかいろいろ考えています(趣味です)。
*1
そもそもなぜCDの売上は下がっていったんだろう
この手のテーマを考えるとき、いつも浮かんでくるのが横山健さんの「ハイ・スタンダードが活躍した90年代みたいな夢」ということばです。
ざっと歴史をひもとくと、1990年代に音楽メディアの王座に君臨したCDは当時の若者にとって最強の嗜好品となり、1998年には生産枚数が過去最高を記録します。
そしてその熱狂を覚えたまま時代は2000年代に突入するわけですが、執筆時点*2までのオリコン年間ランキングで、最後にミリオンセラーを10枚以上生みだしたのがシングルは2000年、アルバムは2001年。
ここでじゃあ2002年以降のCD売上に何が大きく関わったのか?と自分の記憶を掘り返すと、やっぱ「着うた」(携帯)と「動画配信サイト」(ネット)の発展だったのではないかという仮説に辿りつき、歴史をCD売上に重ねてみる。
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※1位選出の条件…【その年に発表された完全新作】&【非アイドル作品(特典のブースト要素が大きいため / EXILE TRIBEもアイドルに含める)】
2000年 非アイドルシングルのミリオンセラー10作
アルバム1位 345万枚(倉木麻衣「delicious way」)
シングル1位 288万枚(サザンオールスターズ「TSUNAMI」)
2002年 ★auで着うたサービス開始(12月~以降2003年に現ソフトバンク、2004年にドコモも参入)
アルバム1位 352万枚(宇多田ヒカル「DEEP RIVER」)
シングル1位 100万枚(浜崎あゆみ「『H』independent」)
2004年 シングルのミリオンセラーが0に
アルバム1位 249万枚(宇多田ヒカル「Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1」)
シングル1位 83万枚(平井堅「瞳をとじて」)
2005年 ★Youtubeの公式サービスが開始(12月~)
2006年 ★ニコニコ動画のサービスが開始(12月~)
2007年 ★着うたの売上がピークを迎える
アルバム1位 118万枚(Mr.Children「HOME」)
※シングル1位 64万枚(宇多田ヒカル「Flavor Of Life」)*3
2010年 ★ニコニコ動画事業が初の黒字化 ★「尖閣諸島漁船衝突映像流出事件」によりYoutubeの名が大々的に知れ渡る
※アルバム1位 90万枚(いきものがかり「いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~」)*4
※シングル1位 31万枚(坂本冬美「また君に恋してる/アジアの海賊」)*5
2014年 非アイドルシングルのミリオンセラー0
アルバム1位 98万枚(VA「アナと雪の女王 オリジナル・サウンドトラック」)
※シングル1位 18万枚(ゴールデンボンバー「101回目の呪い」)*6
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すんごいざっくりした計算でまとめると、アイドル以外の音楽作品は
2000年~2007年(着うたサービス台頭)
アルバム1位 227万枚減(65%減) / シングル1位 224万枚減(77%減)
2007年~2014年(無料動画サイト台頭)
アルバム1位 20万枚減(16%減) / シングル1位 46万枚減(71%減)
・音楽業界における”90年代の夢”の大部分を支えていたのは新規 / ライトリスナーである(仮)
・着うたサービス開始がきっかけとなり、着うたで間に合う新規 / ライトリスナーはCDパッケージを買う理由がなくなっていった
・その後動画配信サービスが普及していくと、新規 / ライトリスナーはさらにCDパッケージを買う理由がなくなっていった
(コアリスナーの買い支えがある程度見込めるアルバムの下げ幅はゆるやか)
→2000年~2014年(CD~着うた~無料動画サイトへ)
→アルバム1位 247万枚減(71%減) / シングル1位 270万枚減(93%減)
※この間にプラス材料になっているもの
・配信売上(2011年頃から伸び始める)
・音楽ビデオ(ライブDVDなどの売上は近年まで増加傾向)
・音楽フェス(2000年代からさらに開催数が増加)
じゃあなぜ新規 / ライトリスナーはCDパッケージ~新しい音楽を買う理由がなくなっていったんだろう
趣味として音楽消費を積極的に行うコアリスナーだけでなく、大量の新規 / ライトリスナーが一緒に”90年代の夢”を支えていたのは、彼らにもCDを買う理由が存在していたから。
じゃあ彼らがCDを買っていた理由とは何かというと、当時はCD視聴(~カラオケや友達との話題)がコミュニケーションの必須アイテムだったから(現代においてスマホ(を通じたやりとりやアプリの話題)なしではコミュニケーションが成り立たないという人がいるのと大体一緒)。
だけどここで気になるのは、音楽消費量と音楽自体への興味は必ずしもイコールではないんじゃないか?というところ。
若者が大量流入している都市部はもちろんのこと、高齢化がガンガン進んでいるはずの地方でも、案外CDレンタル店は盛況で、何なら街の数少ない娯楽施設として貢献すらしている(地方現住ですがこれはガチ)。
じゃあ新規 / ライトリスナーの興味と消費がどこらへんでぷっつり切れてしまったかというと、オリコンランキングの変化という仮説を立ててみる。
特に新規 / ライトリスナーの動向が反映されやすい新作シングルランキングにおいて、年間売上TOP5をアイドルが2作以上占めるようになったタイミングが2006年(5作中4作がジャニーズ)。
タイミング的には着うた移行=ライト消費の低下で、コア消費が固いアイドルCDが上位に押し上げられてくるようになったのが多分このあたり。
以降2007年~2009年はブレイクした嵐がそのままCD総売上を引っぱり、2010年にAKB48がブレイク~今に至る。*7
ここで思うことがあって、もちろんコミュニケーションツールの必須アイテムじゃなくなったというポジション変化は確かに音楽にとってでかかったはずなんですけど、
それ以上に、ランキング以上に新規 / ライトリスナーへ購入理由を紐づけさせる場所や方法そのものが致命的に足りなかった、っていう要素はなかったのだろうかと。
たぶん、音楽が嫌いで嫌いでしょうがないって人はそれほどいないと思うんです。
例えば今全然CD買ってないという人でも、自身の好きだった曲を尋ねると1つや2つは自然にタイトルを挙げてくれるはずです。
でも売上が下がっていってるのはかつて新しい音楽を買い支えてくれていた多くの人たちに「自分との関連性がない」と判断されてしまってるってことで、ランキングが機能していた時代譲りの5を100に増やすプロモーションは、そもそもスタートが0になってしまっていった時代の流れに、果たして合致していたのだろうか。
地方から「音楽を買う理由」を考えて思うこと
ここまでのことをいろいろ踏まえると、結局ミュージシャンの未来をもう一度夢へ近づけるならば、「新規 / ライトリスナーに音楽を買う新しい理由をもう一度0から紐づけしていく」ことはすごく重要になってくるはずで。
最近よく思うんですけど、少なくとも新規 / ライトリスナーの率が高い地方において、今一番身近な音楽メディアは結構真面目にYahooトップのような気がします。
例えば首都圏では当たり前の無数の街頭広告やモニター映像、あれが北海道になった場合、若年層が一極集中してると言われている札幌中心部ですら片手で足りる程度しか見かけないという状況になります。
しかもテレビで新曲をやってくれるゴールデン帯の歌番組はMステだけという状況下、CDショップはあっても棚のCDはどんどんアニメグッズや一番くじに置き換えられていっている。
結論から言ってしまうと音楽をもう一度好きになってくれる新規 / ライトリスナー層の興味は音楽専門誌とテレビ誌のちょうど真ん中くらいを浮遊していて、そこをYahooトップが(芸能ニュースというひとくくりで)潜在的な情報欲求も含めて全部もってってる状態だと思います。
ここにもっとYahooトップくらいの気軽さを湛えた音楽ニュース専門アプリなり、キュレーションサイトなり、もしくはアーティストやレーベル自体がやっちゃうオウンドメディア*8みたいな自己発信が、あればいいのになぁと。
一方的な伝達よりも価値観の共有が重要視されてきている中で、音楽ほど共有にまつわるネタが豊富なジャンルは他にないはずです。
速報やコアな専門誌視点の他に、もうちょいわかりやすくかつ身近な音楽の意味づけができる場所があれば、5を100に変えるほどの派手さはなくても、きっとまだ0を1にすることは可能なんじゃないかなと、老若男女が集う地方のTSUTAYAの風景なんか見てると感じます。
<STORE>
*2:2015.10.17
*3:実際の年間1位は秋川雅史「千の風になって」。前年リリースのため除外
*4:実際の年間1位は嵐「僕の見ている風景」。アイドル作品のため除外
*5:実際の年間1位はAKB48「Beginner」、以降坂本冬美の作品までに48グループ・4作、ジャニーズ所属グループ・8作。全てアイドル作品のため除外
*6:実際の年間1位はAKB48「ラブラドール・レトリバー」、以降ゴールデンボンバーの作品までに48グループ14作、ジャニーズ所属グループ・18作、EXILE TRIBE系グループ・2作。全てアイドル作品として除外。ちなみにゴールデンボンバー「101回目の呪い」も特典つきのCDではある為、完全に特典に依存していない形態だとMr.Children「足音 ~Be Strong」の14万枚が最高位
*7:ちなみにここでアイドルの存在が害悪かどうかというと、実はレコード全盛の1981年~1989年頃にアイドルやそれっぽい位置づけのユニットがやはりTOP5の2~4作品を占めていたことがありました
*8:ブログやSNSがそこを担ってると考えることもできるけど、ああいう自己発信は情報の専門性が高め&生活や交友関係の方が注目されてしまうという側面もあり。そこじゃなくて、もっと楽曲そのものに関するエピソード、思い、バックストーリーや、第三者の視点が介在して気軽に公式動画(新しい音楽)にアクセスしてもらえる、そんなところ