「Otherside」と「愛が止まるまでは」におけるSMAPの役割の違い
本題に入る前にまず両A面として同時収録されている「Otherside」と「愛が止まるまでは」の違いについて触れておきたいと思います。
「Top Of The World」以来2作めのMIYAVI提供曲となる「Otherside」は、出だしの歌パートを木村拓哉・草なぎ剛の2人が担当。
木村・草なぎの2人に共通していること、それは魅力的な”男性的低音”です。
元々木村はSMAPの中でも地声の低さが魅力の1つとなっているメンバーの1人で、草なぎは本来歌声は少し高めですが、実は渋い低音も同時に持ち合わせている人。*1
イントロからアグレッシブな”男くささ”が存分に充満している中、Aメロの出だしに2人の低音が配置されていることで、「Otherside」はMIYAVI特有のギターサウンドを活かした大人グループ・SMAPならではの男性的魅力を豊かに楽しめる作品に仕上がっています。
そしてその対となっている「愛が止まるまでは」、同じように出だしの歌パートに注目すると、こちらは中居正広・香取慎吾の2人が担当。
地声こそ中居は高め、香取は低めと一見共通点がなさそうに見えますが、実は昨年雑誌の企画*2で日本音響研究所が音声検証を行った際に”声に温かみがある”と同じ分析結果が出されていたのがこの2人です。
「愛が止まるまでは」はシングルでは初となる川谷絵音(indigo la End / ゲスの極み乙女。)の提供楽曲で、こちらは過去の愛に対する逡巡とメロディアスな楽器音が溶け合う川谷絵音ならではの一作。
自立心の中にどこか”女々しさ”の揺れも感じさせるその心情を、最初にメンバーの中でも人間味を感じさせる中居・香取の歌声が語り始めることで、「愛が止まるまでは」は”男くさい”「Otherside」とは180度違うSMAPの表現世界を打ち出した格好になっています。
川谷絵音の歌詞世界と偶然リンクした今のSMAPの”本質”
ゲスの極み乙女。の楽曲「私以外私じゃないの<」において、川谷絵音はこう歌っています。
今日も報われない気持ちを整理して生きてたいって思うの
20代の彼が描き同じ若者が身を委ねる灰色のリアリズム。
その世界は「愛が止まるまでは」の主人公にも共有されており、SMAPが演じる主人公も少なくとも「両立しない愛」がこの世に存在することを、現実のものとしてはっきり認識しています。
自分のために生きて 結果誰かのためになった
答えが正しいか間違ってるかなんて
考えてたって僕らはこのままじゃ日々を捨てる
同じ川谷絵音が紡いだ2つの人間像。しかしそれが”偶像”のまま”40代”に突入した5人の男性とリンクした時、楽曲は大きな化学反応を起こします。
それがポジティブなものであっても、例えネガティブなものであっても、最終的に人は誰しも「愛が永遠であること」をどこかで信じています。
そして従来偶像の意味をもつ彼らはどんな時も、揺れる希望を未来へ託す現実の若者とリンクして、その言葉を歌に乗せて沢山の人に届けていきました。
しかし第一線で走り続けるまま先人が想像していなかった”40代”という道に辿りついた時、同時に”偶像”でもあった彼らは、愛という言葉の無情さを残酷なまでにはっきりと知っていました。永遠の愛、終わる愛。叶う愛、叶わぬ愛。
この楽曲の渋い光、それは20代の川谷絵音が紡ぐ繊細で絶妙なリアリズムを40代の彼らが、そしてアイドルのSMAPが歌うことで生じる熱を帯びた矛盾です。
Ilove you Ilove you 愛が止まるまでは
Ilove you Ilove you 愛が振れるまでは
多分これはミュージックビデオverが楽曲表現の最高得点になる
ここまで楽曲について色々語ってきましたが、この感想はすべて9/9発売のシングル初回Bについている同曲のミュージックビデオのみの視聴で書いているもの。
そしてなんとなくですがこの「愛が止まるまでは」は、ミュージックビデオverが楽曲表現の最高記録を樹立するのではないかと思っています。
出演者の衣装も含め全て黒と赤で統一されているこの作品、映像はギター、ピアノ、ドラムの手元アップから始まります。
というかイントロに映るのはほとんど楽器&タイトルのみで、CSの音楽専門チャンネルでその部分が流れていたら間違いなく邦楽ロックバンド好きは手を止めて注視するはず。
AメロからはSMAPが登場しますが、画面内にはこの日のために集まった若手ミュージシャン、各楽器につき4人~8人が一斉に同曲を演奏。SMAPのパフォーマンスはもちろん、同じ曲でも人によってその細かな演奏スタイルが全く異なっているため、楽器隊の動作に注目しているだけでも相当楽しいです。
そして最後までSMAPと若手ミュージシャンによって”疾走する”楽曲。*3
ちなみにMVの中で私が一番グッときたのは、大サビ近くの「(その内余ることは)あるのか」「な」で切り替わる香取慎吾さんの最後の表情です。*4
最後に書いておきたい、2曲通して今シングルで一番重要なのは実は稲垣吾郎であると
ここまでどうしても触れられなかったので、最後の最後に書いておきます。
「Otherside」と「愛が止まるまでは」は上でも説明している通り、基本的には木村&草なぎの男らしさ、そして中居&香取の人間味を柱として楽曲が形成されています。
しかし、2曲が機能するのに一番重要な部分を担っているのは、実は稲垣吾郎の存在なんです。
例えば「Otherside」では現SMAPの長身組として香取のシンメ*5に配置され、共に木村の歌い出しを演出しているのが稲垣。
木村草なぎコンビからバトンを受け取ったAメロ2番手も、近年SMAPのミュージカル班としても活躍しているこの稲垣香取コンビが担当することで、荒々しさだけでなく年齢に即したスマートな男らしさも楽曲に添えることができています。
そして「愛が止まるまでは」はより音楽面で大きな貢献を果たしていて、実はBメロの川谷絵音ならではの畳みかけるようなメロディパートで全編に渡り、高音ハモリを担当しているのがこの稲垣なんです。SMAPでよくハモリを担当しているのは木村・香取という印象があるのですが、この繊細な楽曲世界の中では、SMAPの中でも澄んだ歌声を保ち続けている稲垣のハモリが驚くほどハマっています。
ちなみにちょっと話逸れますが、2014年にさかいゆうが提供したシングル作品「Yes we are」でも楽曲にそれまでにない新鮮さをもたらしていたのが、大サビ直前に配置されたこの稲垣のソロパートでした。
今作は55枚目、次作は56枚目のシングルということで”56(ゴロー)をフィーチャーしよう”というのがここ最近のSMAPの定番ネタになりつつあるのですが、「Yes we are」や「愛が止まるまでは」における彼のパートがとても新鮮に楽曲を彩っていたことを考えると、それで一曲やっちゃっても案外真面目に面白い音楽作品ができちゃうような気がすると私は思います。
<STORE>
*1:ちなみに草なぎの響く低音が特徴的な過去曲を思い返した時、一番最初に私がパッと浮かんだのはSMAP009に収録されている彼のソロ曲「Harlem River Drive」でした。ゴリゴリに効いたギターサウンドと低音ラップの相性が抜群な同曲、生歌だと彼はたまに音を外す時があるのですが、実は低音ほどものすごく歌が安定しますしハマります。
*2:「ザテレビジョンzoom!! vol.18」
*3:ちなみに雑誌のインタビューによると、集まったミュージシャンの実数は各楽器につき10~20人だそうです
*4:あと2番直前のギターフレーズで木村氏のワンショットを抜くところは本当にプロの犯行だと思う
*5:左右対称のポジション